WEAZER 湯縁

西伊豆からの飛躍(文人も愛した、静謐の温泉地へ)

WEAZERの原点は静岡県の西伊豆エリア。インフラに頼らず、自然と調和するオフグリッドの宿として誕生し、数々のゲストを迎えてきた。今回のプロジェクトはその西伊豆を飛び出して新たな場所での建築を予定している。舞台は神奈川県の南西部、温泉と文化の歴史が息づく「湯河原」である。

湯河原は万葉集にも詠まれた名湯で、「薬師の湯」「傷の湯」と呼ばれ湯治場として人々を癒してきた。江戸時代には温泉効能番付で“東の小結”と評価され、明治には傷病兵の療養地としても指定された。

また文人や芸術家が愛した地でもある。国木田独歩や夏目漱石、安井曽太郎らが、この地の空気に惹かれて作品を生み出した。熱海のような華やかさではなく、湯河原には“大人の落ち着き”がある。
この土地ならではの空気感が、プロジェクトの方向性を決定づけた。

加えて、WEAZERを設置する場所は湯河原の中でも竹林に囲まれた俗世から切り離された完全プライベート空間であり、敷地内に温泉も通っている特別な場所である。この土地のオーナーが、我々(ARTH社)の宿泊施設の1つであるLoquat西伊豆の常連客であり、弊社の手掛ける空間創出やホスピタリティ、そして新たな技術で、湯河原を盛り上げたいとの思いから、WEAZERの湯河原プロジェクトが開始した。

*建設予定地、竹林に囲まれた完全プライベート空間
*本プロジェクトの土地オーナーに愛用頂いているLoquat西伊豆 Villa SUGURO

オフグリッド×和×温泉が紡ぐ、新しい湯宿の風景

建築のコンセプトは、自然と建築の呼応。設計は京都で町屋・長屋の改修工事などを数多く手がけ、建築に対して、建てる場所の土地や文脈を重要視する魚谷繁礼建築研究所と連携。建築そのものが自然と呼応し、時間や季節の移ろいを暮らしに取り込むようにデザインを構想している。

空間の特徴としては、以下の通りである。

  • アプローチ:門扉からうねるように竹林の導線が続き、建物に至るまでの高揚感を醸成
  • 二つの庭:ありのままの竹林を建築に近づけて取り込む北側、植栽を加えて庭として整える南側の二つの異なる自然を対比させ「二つの庭」を構成
  • 内外のコントラスト:庇を長く伸ばし、室内を抑制的にデザインすることで、竹林や紅葉の景色をより鮮烈に表現
  • 複数の滞在場所:テラス、水盤、庭、浴室――さまざまな居場所を設けることで、滞在者がその日の気分で過ごし方を選べる「多様な居場所の設計」
*北の竹林は建築と一体化、南は庭として再構成。庇や水盤を用いて内と外をなめらかにつなぎ、反射光が室内を彩る仕掛けを組み込んだ。

オフグリッドと温泉の融合

電力は屋根の太陽光と蓄電池で100%自給。雨水や土壌濾過システムによって水を循環させ、環境負荷を抑える。特に今回は、WEAZER西伊豆とは異なり、温泉の昇温までもオフグリッドで成立させている。毎分23L・38.7℃という豊富な源泉をふんだんに用いた客室付きの露天風呂は、全長4メートルという贅沢なつくり。浴室からは竹林や紅葉を一望でき、湯そのものが景観の一部となる。

さらに、この源泉であふれた湯は客室内の床暖房の不凍液と熱交換を行い、エネルギーの再利用を実現。建物内の消費エネルギー削減に大きく貢献する、突出した設計スキームとなっている。

別荘兼ホテルとしての運用

宿泊は1日1組限定の1棟貸し。オーナーが使うときは自分の別荘として、使わないときはホテルとしてゲストを迎える。「自然と調和する空間で過ごしたい人」に向けた運営モデルを構築し、別荘の自由さとホテルのホスピタリティ、その両方を持ち合わせた新しいスタイルでの事業展開を目指す。

Type Type A